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「ベトナムの変わり様」が見たくて戻った 今後も見続けていく

 

新 俊六氏
Shunroku Atarashi
MARUBISHI SUMMIT INDUSTRY VIETNAM CO., LTD
ADVISER

メーカーの社長としてベトナムに2社を設立

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新 俊六氏(撮影/大木宏之)

1994年5月に設立された合弁による自動車メーカー、ヴィナ・スター・モーターズ・コーポレーション(VSM)。その初代社長に就任したのが三菱自動車の新俊六氏だ。

「私は海外計画部長として、後のVSMの社長を人選していました。何人も候補は挙がったが適任者がいない。上司である本部長もノーという。それで結局、立ち上げ社長を押し付けられました(笑)」

工場は1995年3月から操業開始。「L300」(デリカミニバス)を、輸入したボディに部品を組み付けるSKD方式で生産した。その後、最新の電着塗装設備を備えた新工場で、より細かく分解された部品で組み立てるCKD方式に移行した。

「最新の電着塗装というベトナム政府の要望がありました。数億円単位の資金が必要で、しかも、一定の需要がないとコスト的に見合わないのですが、政府の要望ということで本社を説得し、導入しました。結果的によかったと思います。その後、40店ほどの販売店を作りましたが、売れるのはホーチミン市とハノイが中心。累計で何千台か販売しました」

1997年末まで社長を続けて退職。ベトナムで知人の会社を手伝った後、1998年10月に旭通信社に入社。帰国して海外部門の顧問となった。
「5年で退職しましたが、この間にパソコンを覚えました。60の手習いで、腱鞘炎にもなった(笑)」

そのころ、新入社員の資材部時代に付き合いがあった、車のシートメーカーである丸菱工業から連絡がある。競合他社が海外で部材の製造をしているが、ベトナムでできないかという相談だ。最終的に自らが社長となって再度来越。タイの大手部品メーカーSUMMIT と組んで、MARUBISHI SUMMIT INDUSTRY VIETNAM CO.,LTD(MSV)を設立した。

2002年に会社を立ち上げ、2003年5月に操業開始。シートカバーを生産し、日本の丸菱工業がシートに組み立て、三菱自動車のパジェロとデリ
カに使われている。設立当初10人程度だった従業員は約100人にまで増えた。

「4〜5年で辞めるつもりがもう10年以上経ち、2010年10月からは顧問になりました。年齢を重ねても自由に働けるベトナムが気に入っています」

新氏は1938年12月生まれ。現在75歳である。

性格は直せないから裏表なく自分をさらけ出す

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新氏にベトナムビジネスの特徴を聞くと、「後出しじゃんけんが多い」とのこと。ベトナム人は最初の話し合いではあまり本音、要望を言わず、こちらが何らかの結論を出すと、別の意見を言い始めるのだそうだ。

「それなら最初から言えよ、と思うでしょ。そうじゃない。焦らずに、この段階から話し合いが始まると思えばいいんです。そして、なぜそういう意見になるのかを探すことも大切です」

また、日系企業にとって悩みの種の一つが、ベトナム人スタッフの定着率。新氏も「日本人より愛社精神は希薄のようだ」と語るが、VSMでは初期のメンバーが今では幹部クラスで活躍、MSVでも立ち上げメンバーが何人もおり、両社ともに退職者は少ないという。

「ベトナム人は新し物好きで、好奇心も強い。だから、ITの分野が注目されるととりあえず転職したくなったりもする。ですが一方で、満足していればその会社にいる人たちだと思う。そのためには、きちんとした給与とポジションを与えることでしょう」

加えて、新氏が何より大切にしているのが「信頼関係」だ。日本人は外国であるベトナム、あるいはベトナム人に対して警戒心を持ってしまうものだ。しかし、どんな信頼関係を作るのかがビジネスの基本になるはず。

「叱っても、ほめすぎてもいけない。間違いはきちんと指摘するが、こちらが反省すべき場合は頭を下げる。表裏なく、格好つけないで自分をさらけ出すことです。性格は直せないから、『理解してよ』と言うしかないでしょう(笑)」

急激な変化に対応するベトナム人の「すごさ」

ベトナムは大きく発展している。特にこの10年は高層ビルが建ち並び、高級車に乗る人が増え、変化が勢いを増したと新氏は実感している。彼が初赴任した20年前の様子を知る人、特に日本人は少なくなった。

「この急激な変化に対応しているベトナム人の適応力は、本当にすごいと思う。私がベトナムに戻って来たのは、『この国の変わり様』が見たかったからなんです。これからも見ていきたいですね」

新氏は長年ベトナムで仕事をしてきて、日本人に嫌な思いをさせられたことはあっても、ベトナム人に本気で怒ったことはないという。

ベトナムビジネスの3ポイント

・「後出しじゃんけん」から本当の交渉を始める
・従業員に適正な給与とポジションを用意する
・不要な警戒心を持たず、表裏のない信頼関係を作る