本企業A社のベトナム現地法人AVN社は、ベトナム企業のP社に商品を販売していますが、売掛金が3ヶ月分滞っています。AVN社の日本人社長Bさんが、P社のベトナム人社長Qさんに会いに行くと、「不良品があった」とか、「息子が経営するR社が購入した」とか、支払わない理由を挙げるだけです。このままではいつまでも回収できず、時効消滅もあるため、B社長は、弁護士に依頼して督促状を出そうと考えています。しかしながら、弁護士の督促状は、交渉開始のきっかけとはなっても、これだけで回収できる場合は多くなく、次の手段を考えておく必要があります。

Q社との売買契約書の中に「仲裁条項」があれば、契約の指定する機関(ベトナム商工会議所が運営するVIACなど)での仲裁手続きを検討します。これに対し、裁判所による訴訟は、ベトナム語で行われる、長期化しがち、ビジネス法分野の経験・知見がある裁判官が少ない、などの理由からあまり推奨できません。

どちらの手続も、相当の費用が必要で、売掛金の額によっては現実的な選択とはならないかもしれません。また、現時点でP社の会社名義の資産がなく、Qさんや家族の個人名義になっていれば、仮に勝訴判決を受けても執行することができません。取引開始時点で経営者の個人保証を取り付けておくことが望ましいのですが、ビジネス上は難しいことが多いでしょう。

残念ながら、法的手段で一気に回収しようとしても、さまざまな壁にぶつかるのが現状です。現実的には、契約締結前に内容を吟味し、こまめに相手先へ足を運び、支払誓約書に署名の上、少しずつでも入金してもらうなど、地道で手間のかかる取立方法が結果として近道といえるかもしれません。

小幡 葉子
Obata Yoko
TMI総合法律事務所ハノイオフィス勤務。日本国弁護士・ベトナム外国弁護士。1992年より雨宮眞也法律事務所にて企業法務を担当、JICAベトナム法整備支援長期専門家などを経て、2013年4月より現職。
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