世界有数の即席麺市場に、5年前から参入したベトナム日清。「ノンフライ麺」という新しいカテゴリーを創り出し、今年7月には世界ブランド「カップヌードル」のベトナム版を発売した。35歳の若手社長が戦略を語る。

後発参入企業の工夫

代表取締役社長 乾 卯太弘

―― 5年前に進出しました。

 2011年3月に現地法人を設立し、2012年7月に工場を竣工。ベトナムは9200万人の人口を持った、世界4位の即席麺消費国です。平均年齢が29歳と今後の伸びしろも期待できる、見逃せない市場です。

―― ノンフライの袋麺「365」を発売した理由は?

 我々は後発ですから、新しい切り口で市場に参入するためです。ノンフライ麺は、健康への意識、食生活のバランス、朝食にライトなものを食べたいといった、新しいニーズに応えられると思いました。技術的には、ノンフライ麺は湯戻りを工夫する必要があり、開発には苦労しました。工場の製造設備は日本のものと大きく違わない最先端のものを導入しています。今年9月には4種類目となるベジタリアンフレーバー、「味噌スープとわかめ味」を出したところです。

―― ノンフライの意味が、ベトナムでは伝わりにくいのでは?

 商品を棚に置いただけではわかってもらえないので、Webサイトで丁寧に説明しています。特に若い人はインターネットで情報収集しており、テレビCMよりWebの方がコンセプトを伝えやすいと考えています。また実際、Webの情報を通じた彼らの発信と口コミにより宣伝効果が出ていると感じています。現時点ではまだ弊社の市場シェアは数%ですが、これからコツコツと伸ばしてきたいと思っています。

ベトナム版カップヌードル

―― 7月にベトナム版のカップヌードルを発売しました。

7月に発売されたベトナム版のカップヌードル

 1971年に日本で発売したカップヌードルの45周年という節目の年に発売しました。ベトナムのカップ麺市場は全体のまだ2%ほどですが、毎年前年比20%以上で伸びています。私は、赴任した時からこの日清食品の看板ブランドを是非発売したいと考えておりました。コンビニやスーパーが増加中の良い時期に発売できたと思います。

ベトナムは即席麺消費大国ですが、その消費量は徐々に減っています。食の選択肢が増えたことも理由でしょうが、ライフスタイルの変化が大きいのでしょう。

こうした傾向は「新しい商品が欲しい」という消費者からのメッセージだととらえました。そこで「JAPANESE SEAFOOD」と「THAI TOM YUM」というユニークな2種類にしました。シーフード味はベトナムのカップ麺で初めてではないでしょうか。

―― スープや麺はベトナム仕様?

 はい。ベトナム人の嗜好に合わせてカスタマイズしています。ベトナム人は塩味に敏感で、日本のカップ麺を食べると塩辛いと言います。特にシーフード味のスープは辛味や酸味ではなく塩味とうま味が主体ですから、塩味を抑えてあります。トムヤムクン味のスープはタイのものと比べてほとんど味を変えておらず、酸味と辛味が強い、ガツンと来るタイプです。
 ベトナム語の「ヤイ」(Dai)は弾力があるというような意味で、「ヤイな麺」というと褒め言葉になります。我々が麺で目指したのがこのヤイです。麺が柔らかくなりすぎてはダメで、弾力を残して調理を終えるように商品設計をしました。日本版は出来上がりを待つ時間が3分ですが、ベトナム版は1分半。また、ベトナム人は1分半ほどで即席麺を食べきってしまう習慣があり、その間はヤイが続くようにこだわりました。
 価格はスーパーで1万2000VND、コンビニで1万4000VND程度と、競合商品と比べ多少高めですが、品質の良い「カップヌードル」は、十分に受容性があると考えました。

―― 売行きはいかがですか?

 想定した以上の販売数です。シーフード味は特に女性に好評で、味が強烈なトムヤムクン味は男性に受けているようです。
 同じ「カップヌードル」ブランドでも、麺やスープは国ごとの嗜好に合わせて変えています。ベトナム人は味や食感に対するこだわりが強いため、1年以上の期間をかけて開発しました。「カップヌードル」は、世界の80ヶ国以上で発売している弊社の看板商品ですから、そのキャラクターを失わせないまま、ベトナムの皆さんにも楽しんでもらいたいと考えました。今回は、品質の良さを理解していただけたと感じています。

―― 今後はどんなことを?

 これらのカップヌードルはタイの工場で製造していますが、時期を見ながら他のフレーバーを展開したいです。例えば、シンガポールには12種類の味のカップヌードルがありますからね。国民の所得が上がればカップ麺市場が拡大するのは確実で、現在の2つの味が飽きられないタイミングで新商品を発売していくつもりです。
 また、ノンフライ麺も拡大させたいです。最先端の製造設備がありますから、ベトナムを製造基地とした近隣諸国への輸出も検討しているところです。

NISSIN FOODS VIETNAM CO.,LTD.
General Director
乾 卯太弘

INUI UTAHIRO
1981年生まれ。大学卒業後に大手シンクタンクに入社。外資系コンサルティングファームに転職後、2012年に日清食品ホールディングス株式会社に入社。海外事業の支援に携わった後、2013年11月にストラテジックダイレクターとしてベトナムに赴任。2016年3月より現職。