今年1月、ハノイ・ノイバイ国際空港の第2旅客ターミナル(T2)が完成し、運用を開始した。この新ターミナルを建設したのが大成建設だ。ベトナム総代表の柳井泰司氏は、様々なビジネスプランを視野に入れている。

34ヶ月の短工期給油システムを刷新

ベトナム総代表 柳井 泰司
撮影:勝 恵美

―― ノイバイ国際空港のT2が動き出しました。

柳井 ありがとうございます。振り返ると、34ヶ月の工期は厳しかった。タンソンニャット国際空港も弊社が請け負いましたが、今回の約1.5倍の規模で、ほぼ同じ工期だったのです。

―― T2の大きな特徴とは何でしょうか?

柳井 ひとつにはジェット燃料供給設備が挙げられます。新設した給油タンク場から航空機の停留場所まで、地下埋設で配管されたパイプを経由し、航空機に直接給油するシステムです。これにより長距離便の給油時間の短縮や、安全性が格段に違ってきます。

―― かなり大規模な工事でした。

柳井 弊社はハノイとホーチミン市周辺に日本人社員が約20人、ベトナム人スタッフは約300人いますが、このT2の場合はそれ以外に60名強の日本人スタッフと、ベトナム人を含めた外国人エンジニア約400人、そしてワーカーさん3000人以上に加わってもらいました。ローカルのサブコン(下請けの施工会社)は約20社にお願いしました。

―― 特にどんなところに苦労しましたか?

柳井 この工事だけに限ったことではないですが、日本人とベトナム人との価値観のギャップでしょうか。我々は「一品もの」を作り上げますから、その請負契約に則った、品質、工程、そして安全等の管理に努め、その中で「大成建設のスタンダード」や「段取り」の徹底が必須になります。

それを理解してもらうことが簡単でなく、中でもベトナム人エンジニアを介してのワーカーさんへの意識改革が大変でした。

我々日本人は生産性を上げたいと思いますが、極端な話、ベトナム人には仕事が早く終わると食い扶持がなくなると考える人もいる。だから、生産性向上のメリットを経営者に伝え、次の仕事の確保などもする。一方で、ベトナム人はプライドが高いですから(笑)、「こんなこともできないのか」となると、「なにくそ」と頑張る人もいる。そこで、本人、企業の性格に合わせたモチベーションの上げ方を考えるわけです。

いずれにせよ、ここベトナムでは日本人だけで、このような突貫の大工事を遂行できません。ベトナム人にはへこたれない人が多く、黙々と作業をしてくれました。本当に感謝しています。 また、T2は今後のベトナムの発展に寄与するものと思っていますし、完成は建設屋冥利にも尽きます。長く、丁寧に、そしていつまでも綺麗にオペレーションしていただきたいものです。

来越して20年この経験を活かしたい

第2旅客ターミナル完成後のノイバイ国際空港

―― 御社はどんな案件が多いのでしょう?

柳井 円借款のODAの大型案件です。道路橋梁や鉄道橋の工事、水処理場、都市部の地下道工事などをベトナム全土で行っています。

民間では日系企業の工場、倉庫、事務所内装が中心で、工業団地のインフラ工事などもさせていただいております。日系企業の進出がほぼ一巡したせいでしょうか、工場は新規案件よりも、最近は、増設や改修が多いですね。

また、倉庫では保冷施設やクリーンルームを付けるなど、特殊な設備を追加するケースも増えてきました。これらの付加価値施設が、他社との差別化の売りにもなっていると思います。

―― 今後はどのようなことを考えていますか?

柳井 ODAと日系企業だけでなく、例えばPPP(官民パートナーシップ)のインフラ案件なども手がけていきたいですね。それと、担当エリアのベトナム近隣諸国にも力を入れていきたいと思っています。

担当外ですが、規制は多いもののミャンマーは20年前のベトナムに近い感じがして、弊社には大きなチャンスがあると思っています。そして、ラオスとカンボジアはベトナム政府がドン借款(ODA)も行っており、弊社とも関わりがあるベトナムの建設会社が進出しています。彼らとのサプライチェーンが大いに期待できると思うのです。

―― 今年は来越して20年目とか。

柳井 1995年8月に3ヶ月間の出張と言われ来越して、そのまま5年の赴任となりました(笑)。着任当時は29歳で、ベトナムではいくつかのインフラ案件を経験してきました。1998年にはタンロン工業団地の造成を担当し、それが完成した2000年に一度帰国。その後2年間はベトナム担当で日本国内での勤務でしたが、2002年に再度ベトナムへの片道切符を渡されました。

今までの経験を、これからも大いに活かしたいと考えています。

TAISEI CORPORATION VIETNAM REPRESENTATIVE OFFICE
Chief Representative 柳井泰司

1965年生まれ。大学卒業後に大成建設に入社。1995年に海外事業本部(当時)からベトナム・ハイフォンに赴任。その後、2000~2002年を除いて一貫してベトナムでの建設事業に携わる。2012年から現職。地域統括責任者としてラオスとカンボジアも管轄している。