日本品質の文具をベトナムに展開するコクヨ。リーマンショックを機に決断した国内販売(ノート、OEMラベル)は急拡大を見せ、売上の柱に育ちつつあるという。平松一平社長は「工場の拡張も夢ではない」と語る。

日本品質のノートが好評デザインは派手に大きく

代表取締役社長 平松 一平

―― 工場の操業はいつからですか?

平松 2006年です。当初は全てが日本向けで、ファイル(バインダー)とラベル(インデックス)が主力商品、コストダウンが目的でした。しかし、2008年のリーマンショックで日本からの注文が激減して、ベトナム国内向けのビジネスを考えたのです。弊社が得意とするのはノートですから、その市場調査から始めました。

―― どんな結果だったのでしょう。

平松 アジア圏のノートの多くは、ホッチキスで中綴じした「ワイヤーステッチ」方式です。ノートを開くと膨らむので文字が書きにくい、紙が破れやすい、ホッチキスの先で怪我をするなどのデメリットがあります。一方、弊社のノートは背を糊で綴じる「無線綴じ」なので、こうした心配がありません。優位性が出せるのと、現地生産している外資系の競合他社がほとんどないことから、生産を決めました。

発売すると、すぐに受け入れてもらえました。価格はローカル品より1~2割あえて高く設定しましたが、製法の良さと日本の品質が評価されたようです。ただ、デザインには苦労しましたね。

―― 表紙のデザインですか?

平松 はい。日本のようなすっきりした、機能重視なものではなく、派手なデザインが好まれます。小学生向けなら、キャラクターを全面に描くような絵柄です。ベトナム人デザイナーがデザインを担当していますが、実は毎年図柄を変えています。最近でよく売れているのは「星座シリーズ」です。一つの星座を可愛くイラストにしたもので、販売は順調です(写真で平松氏が手にしているのは「ふたご座」)。

細かい工夫に独自の知恵

コクヨベトナムが販売している文具の一部

―― 確かにどれも派手に、大きく描いてありますね。

平松 ただ、こうすると表紙に余白がないので、自分の名前や教科名を書く場所がなくなります。どうしているのかと調べたら、別にシールを買って、ノートに貼って、そこに名前などを書いていることがわかりました。しかもその上から、透明なフィルムカバーを付けるのが一般的だと知りました。それなら自社で作れると、シールとカバーも売り出したのです。

―― こちらのノートは、方眼紙のような正方形の小さなマス目が描かれているのですね。

平松 このマス目に沿って、正確に文字を書くように教えているようです。また、左側にスペースを設けているのは、先生が採点やコメントを入れるスペースです。こうした現地の仕様に合わせるのと同時に、独自の工夫もしています。例えば、小学生は万年筆で書くように指導されるので、インクが裏写りしないように紙を厚くしました。また、テスト用紙にも小さな工夫をしました。

―― テスト用紙ですか?

平松 学校や文具店にヒアリングしたところ、テスト用紙はあらかじめ生徒が買っておき、宿題を出されたらそれに書いて提出するようです。これには横の罫線が引いてあるのですが、そこに約1㎝間隔でドットを入れました。数学の曲線などがきれいに描けるようにするためです。

ノート販売をきっかけにして、国内の有力な卸商とのリレーションが生まれ、現在では各省の卸商が大切なパートナーとなっています。彼らを通してローカルの店舗に販売しており、国内販売は急拡大をしています。最近では、ペン、消しゴム、マークシート用のセットなど商品の幅を広げ、文具に価値を持たせるように心掛けています。

ラベル事業が第二の柱に二度目の工場拡張へ

―― 新しい「ラベル事業」も好調のようですね。

平松 3年前から始めた、主に日系企業向けのビジネスです。様々な商品に貼るラベルをOEMで作っていまして、日系企業の進出増加に伴って順調に伸びています。多くの会社さんはこうしたラベルを現地調達へ切り替えたいと考えていますが、ローカル企業から仕入れたラベルは不良品が混じることがあり、安心して使えないという困りごとがあるとがわかりました。そのため、日本と同様に丁寧に品質管理をしている、弊社の姿勢が評価いただけたのだと思います。

ラベル事業は日本では行っていないのですが、現在では第2の事業の柱になりつつあります。

―― 各事業の割合はどのようなものですか?

平松 およそですが、売上の70%が操業当初からの日本向けの文具、15%がベトナム国内向けのノートを中心とした文具、残りの15%がラベル事業です。今後は国内向けの2事業をさらに進めていくつもりです。

Kokuyo Vietnam Co., Ltd
General Director 平松 一平

1971年生まれ。大学卒業後、1993年にコクヨ株式会社に入社。主に生産調達と原材料の購買に携わり、約15年前から海外調達も担当。ベトナムには出張ベースで何度か来越し、2012年2月に赴任して現職。