banar_feature_650-150_Oct撮影:大池直人

ベトナム人スタッフへの教育・研修がブームとなっている。「おもてなし」、「5S」、「ホウ・レン・ソウ」など、競争力のある日本流の導入で、効率化や優位性を高めるためだ。企業単体、他社との連携、研修サービスなどの取組みがあるが、特に成果を上げている事例を紹介する。

AEON DELIGHT (VIETNAM) CO., LTD
イオンの「おもてなし」を支える赤と黒のベトナムレディ

来店するベトナム人から「接客のレベルが違う」と驚かれる、ショッピングセンター「イオン」のスタッフ。それを陰から支えているのが、「カスタマーセキュリティ」と呼ばれるイオンディライトベトナムの社員たちだ。

様々にお客を助ける女性だけのチーム

General Director
磯貝孝幸氏

南部にあるイオンの1号店と2号店には、「カスタマーセキュリティ」(CS)と呼ばれる女性たちがいる。フロアの案内係であるアテンダー(写真の赤服)と、総合案内のインフォメーションスタッフ(同黒服)だ。2店舗にそれぞれ約20人がおり、約3分の2がアテンダーとなっている。彼女たちは全員がイオンディライトベトナムの社員である。

「現在、ベトナムのイオングループには小売りのイオン、デベロッパーのイオンモール、金融のイオンクレジットサービス、弊社など合計8社があり、他社に事業に専念してもらうため、バックオフィス系は弊社が担っています」

平均年齢21歳と若い彼女たちの特徴は、日本式の「おもてなし」と「笑顔」。

ただ、その仕事は多岐にわたり、アテンダーならお客の案内だけでなく、フロアを回って警備面での不安や清掃の汚れなどをチェックし、気になる点があれば警備係、清掃員、施設員などに無線で連絡する。また、重い荷物を持つお客を出口までサポートするなども仕事のうちだ。

アテンダーは「アテンダースタッフ」を経て「アテンダーリーダー」となり、その上のポジションが先の「インフォメーションスタッフ」。その上が同じ黒服の「インフォメーションリーダー」で、最上位が「スーパーバイザー」。つまり、アテンダースタッフから昇格を続けてスーパーバイザーになるのだが、職務内容が異なるので給与も違う。

研修は月に一度4時間お客の声も収集

総合受付で対応するインフォメーションスタッフ(左) 実地研修でのスーパーバイザーとアテンダー(右)

スーパーバイザーによる講義

スーパーバイザーはCS研修の講師でもあり、新入社員の入社時と1ヶ月に一度教えている。研修は合計4時間で、2時間の講義と2時間の実地研修となる。

「座学の講義には『おもてなし』、『笑顔』、『挨拶』、『ホウ・レン・ソウ』の4テーマがあり、毎回内容を変えて教えています。効果が高いので、日本のドラマの動画を使って、楽しく教えるという工夫も行っています」

実地研修はインフォメーションリーダー以上が担当し、研修生の横について指導する。例えばベトナム人、特にお年寄りにはエスカレーターに不慣れな人がいるので、エスカレーターの乗り方や乗るタイミングをサポートする。この方法をレクチャーするのだ。

講義で使用している資料の一部

講義で使用している資料の一部[/caption]他にも、迷子を見つけたらあやして所定の係に連絡する、落ちているゴミを拾うなどがあり、ゴミを拾う際の「きれいな姿勢・動作」も教えるという。

イオンの店員に代わって、お客の生の声を収集するのもCSの役目だ。商品への注文や店員への苦情などの声を聞いて、毎日のミーティングでイオンのスタッフに伝えている。こうした現場の意見を確認して、イオン側が今後の改善につなげている。

「例えば、『この商品はもっと目立つ棚において』や『値段表が付いてないわよ』などは、すぐにでも対応できる貴重なご意見です。『レジが遅い』などと、ボソッとつぶやくお客様の声も参考にさせていただいています」

外資系から引合い今後はサービス提供も

イオンディライトは、ビルメンテナンスやバックオフィスサポートなどの、総合ファシリティ・マネジメント・サービス(FMS)を展開している。ベトナムへの進出は2013年であり、イオン内ではCS以外にも清掃、設備管理、警備(外注)、フードコートの衛生管理に人材を派遣しており、総従業員数は約300人。アテンダーが無線で連絡を取る清掃員や施設員(設備管理)などは、同じ社員同士ということだ。

CSについては日本でも同様の研修を行っているが、ベトナムの事情に合わせてカリキュラムの内容変えているという。

例えば、日本ではお辞儀が大切で、角度なども決まっているが、ベトナム人スタッフから「ベトナムでは違和感がある」との意見から取り入れていない。磯貝氏は、「日本とベトナムのミックスではなく、相互で足したり引いたり」と語る。

最近はグループ内ではなく、他の企業から派遣の引き合いが増えており、特に多いのが外資系企業からだという。日本の「おもてなし」を自社に導入して、サービス力を高めたいようだ。

逆にローカル企業からは清掃分野に問い合わせがある。同社の清掃はバクテリア駆除を含めた衛生管理であり、ベトナムでは一般的でない点でも注目されているという。

「派遣だけでなく、今後は教育・研修のサービスを提供したいと考えています」