FPTと競争できるIT企業を作りたい
リッケイソフト

 
オフショア開発の受託先として存在を示すベトナム。
現地大手や日系企業がシェアを伸ばす中、設立わずか3年弱で頭角を現したのがリッケイソフトだ。
その独自の戦略を社長のトゥン氏に聞いた。

代表取締役社長 タ・ソン・トゥン氏(26歳)
両親はアオザイ作りの職人。アオザイ作りをビジネスにしたいと志すが、ハノイ工科大学に進んだことからIT業界での起業を目指す。大学在学中にJICAのITエンジニア育成プロジェクトに参加し、2009年4月に立命館大学に入学。卒業後に帰国してFPTに1年間勤務の後、2012年4月にリッケイソフトを設立。

 

人材と日本語がカギ

 

理系の名門、ハノイ工科大学では、JICAの「ハノイ工科大学IT高等教育人材育成プログラム」の1期生だったトゥン氏。立命館大学理工学部に留学し、卒業後はベトナムに戻ってオフショア開発最大手のFPTに入社した。

「起業は前から考えていたので、FPTに入ったのは大きなプロジェクトやISOなどを学ぶためです。FPTはベトナムで一番大きなIT企業ですが、2番手以下は小粒。私はFPTと競争できる会社を作ろうと思ったのです」

FPTで1年間働いた後、2012年4月に会社を設立。一緒に起業したほかの3人は前述の1期生仲間であり、4人の留学先は立命館大学と慶應義塾大学。そこで2大学の頭文字を取って、社名を「リッケイ」ソフトとした。今では従業員が95人に増え、約80%がエンジニア、平均年齢は25歳と若い。顧客はすべて日本企業だ。

「従業員の半数以上が日本語能力試験(JLPT)のN3以上で、弊社には翻訳者などのコミュニケーターがいません。すべて日本語でやり取りし、仕様書も日本語で読みます」

事業内容はスマートフォン向けのアプリ開発が約50%。次の柱がWebシステムやECサイトなどのWeb系開発で約35%。基本設計、詳細設計、テストまでを一貫して行い、一番伸びている分野だという。次が保険会社など金融機関向けのシステム開発で15%。FPT時代の元上司をスカウトして、新分野を開拓した。

わずか数年でここまで事業拡大できた理由は、日本語能力の高さだけではない。まず、優秀な人材。従業員は難関大学の出身者が多く、数学、物理、ITなどの国際大会の上位入賞者や、大学センター試験での満点者などが集まる。その理由には成長企業で働きたいという以外に、同社の従業員への厚遇もあるようだ。

例えば、N2の取得者で月給1000ドル以上、N1を取ると300ドルの手当てが出る。リーダークラスは社費で夜間大学に通えて、PMP(プロジェクトマネジメントの国際資格)などを勉強できる。社内では毎日日本語の授業があり、先端技術はチーム単位で週に1回開く、2時間のセミナーで学ぶといった具合だ。

 

信頼関係が何より大事

 

独自に開発したゲームアプリ「Army Of One」

オフショア開発の魅力は発注コストの安さだが、同社の受注額は一般のベトナム企業より高いという。コストではなくクオリティで勝負しており、「納期や約束を守る」という姿勢が高評価の理由のようだ。ベトナム企業に限らず、実はIT業界では「納期遅れ」が珍しくないが、どうやって管理しているのか。

「CEOの私は営業と組織作りを担当しており、その下にCTOがいます。彼が案件を受けるかどうかを決めていますが、判断できないときは、5つあるチームの各リーダーに確認して判断します。お客様とは信頼関係が第一ですから」

オフショア開発には案件単位で受注する「プロジェクト型」と、期間を決めて専任チームが担当する「ラボ型」とがあるが、同社の仕事の8割はラボ型という。ラボ型は稼働の安定性が高くなる一方、仕事がなくても経費を支払うというリスクがある。それでも多くの顧客がラボ型を選ぶのは、まさに同社への「信頼感」があるためだろう。

日本人とベトナム人の両方を知るトゥン氏は、両国の評価制度についてこう語る。

「日本人によくない点があるとすれば、頑張っている人は高く評価するものの、結果を重視しない点。逆にアメリカは結果だけを見て、プロセスを評価しない。ベトナムはその中間だと思います。ただ、私は日本の仕事のスタイルが大好きです。滅茶苦茶頑張るところも(笑)」

 

郷に入れば郷に従え

 

今年はオーストラリアとアメリカに行く予定で、日本以外の海外の仕事も取りたいという。また、ベトナム市場のみではパイが少ないため、世界に向けた自社サービスを始めたいそうだ。当座は独自のゲームアプリなどを開発し、技術力や開発力のアピールをする予定。オフショア開発では顧客との守秘義務があるため、具体的な業務内容をオープンにできないからだという。

ベトナムで起業する日本人へのアドバイスを聞くと、「優秀なベトナム人のパートナーを見つけること」という返事。もちろんリスクはあるが、ベトナム独自のルールや文化を知っていることが強みになるという。

「郷に入れば郷に従えです。仕事中でも奥さんから頻繁に電話があり、仕事に集中できなくなることも、もっと知るべきです(笑)。私は科学的な日本の仕事の進め方は正しいと思いますが、いつも日本式が正しいとは考えず、少しずつチェンジすることも大切だと思っています」