輸出型から内需型へ初海外ならベトナムに

 

丸田善久氏 JBAV会長
トヨタモーターベトナム代表取締役社長

伊藤博重氏 JBAV副会長
日本航空ベトナム総代表ハノイ支店長

大塚雅康氏 JBAV広報委員長
タンロン工業団地 代表取締役社長(住友商事)

ベトナムの首都、ハノイ。政府機関や官公庁が置かれるこの街、および近郊のハイフォンには、大手企業や製造業の進出が多いと言われる。今、ベトナムの北部ではどんなことが起こっているのか。

今変化しつつある北は製造、南はサービス

_MG_7953丸田 この数年は会員数が年間50社ほど伸びています。JBAVの5割は工業部会ですが、変わらずに製造業、特に中小企業が増えています。
また、最近ではIT、人材育成、コンサルタント、法律事務所、人材紹介、会計事務所といった、日系企業進出をサポートするサービス系企業の進出も見受けられます。JBAVのサービス等の部会は、工業部会に次いで会員数が多くなっています。

大塚 私の会社はタンロン工業団地と第2タンロン工業団地をそれぞれ管理、運営する会社ですが、入居企業さんの半分以上が輸出加工型企業で、残りは輸出もするが内需も対象とした企業です。中小企業の引き合いが多いのは輸出型です。

丸田 北の方は、賃金が安くて優秀な労働力でメリットを出す、輸出型の製造業が多いのでしょうね。
一方のサービス業といった内需型の企業はホーチミン市など南が先行していると思いますが、最近は北でも増えています。

大塚 最初に商業が発展したのは南で、軽工業やサービス業が盛んになり、それを追いかける形で北に製造業が進出したと言われます。
ただ、実際には南にも大手製造業が出ているし、北でサービス業も起こっている。今後は北でもソフト系の企業が増えるでしょう。

伊藤 JALは1994年にホーチミン市、2002年にハノイに就航しました。JALがハノイに就航した頃から、北の重要度が上がってきたと思います。

丸田 弊社も最初は南に販売会社を作って、次に北に展開しました。
当初はホーチミン市での車の需要が大きかったのですが、北での需要も高まり、今ではハノイ、ホーチミン市とも同水準のマーケット規模になっています。

視察は増加しているが判断を待つ企業も

_MG_7705伊藤 私は約4年半ベトナムに赴任していますが、この間に来日するベトナム人も、訪越する日本人も一貫して増えており、民間での交流も盛んです。
この数年の特徴は視察の増加ですね。個社もありますが、県単位や信用金庫などが顧客をまとめて来越するなど様々です。
その多くは海外展開を考えている中小企業ですが、ベトナム進出を念頭に置いているわけではないので、進出に結びつくとは限りません。

大塚 県やJETROのような公的機関が製造業などの中小企業を後押ししたり、信用金庫が中小企業の視察団を連れて来て、工業団地を視察されるケースも増えていますよ。
今日も信用金庫の方が20社ほど連れて見えられましたが、10~20社でまとまって来る場合が多いです。ただ、あくまで視察であり、ベトナム進出に結びつくとは限りません。

丸田 今、視察に来られる企業の業種、または進出された企業の業種は本当に幅広い。皆さんが考えているのはベトナム国外の需要で、ベトナムで安価に生産にして日本や欧米に輸出するという輸出型が中心です。

大塚 最初のころは二輪、四輪、電気・電子のメーカーが進出し、それらに関連するサプライヤーが進出しましたが、今は業種の特徴が見出せません。

各業界の現在の動向内需が今後の魅力に

_MG_7816丸田 自動車業界の販売台数は2012年に落ち込みましたが、今年は回復しており、足元では順調です。将来的には9000万人の人口を背景に、間違いなく自動車のマーケットは拡大します。
一方、製造の視点でいえば、現在はまだマーケットの規模が小さく、部品のほとんどを輸入に頼っているため、コストが高いことが課題です。例えば、車なら1車種で3万台売れないと、サプライヤーはコスト高になってしまう。もっとサプライヤーさんに来てもらって現地調達を増やしたいという気持ちはありますが、まだそこまでのステージに至っていません。

大塚 新規工業団地の認可は現在止まっています。ただ、それは認可後に開発しないところが少なくないため、新規工業団地を認可しないということです。
実際、タンロン工業団地はほぼ埋まり、第2タンロン工業団地も引き合いが増加しています。今後もベトナム全体で工業団地の需要は増えると思います。

丸田 ベトナムでの輸出型産業は続くでしょうが、最近は最低賃金が上昇しつつある。内需型なら賃金が上がれば内需も膨らんでバランスが取れますが、このまま5年、10年と賃金が上がると輸出型は厳しくなります。
中国がまさにそうで、労務費が上昇したので日系企業は内需へとシフトして、輸出型企業は他国に工場を移した。ベトナムは今後の5年、10年でその狭間に入っていくだろうと思います。
ただ、将来の内需型拡大は皆さん意識されていまして、「ベトナムの魅力は今後の発展であり、人口9000万人の内需だ」と口を揃える。問題は賃金の上昇と内需が拡大するスピード感のバランスですね。

伊藤 来越日本人が年間で約60万人、訪日ベトナム人が約8万人。前者は2%ほどの伸びですが、後者はまさに内需で約50%と急増しています。ビザの緩和、航空の供給増、円安、 日本側の観光キャンペーンなども理由でしょうが、ベトナムに富裕層が増えているのですね。そうでなければ、1回に2000USDほどかかる日本旅行に行かれません。
また、ベトナムはインドシナ半島の一番東にあり、日本から近い。以前はシンガポールやバンコクが乗り継ぎの中継地でしたが、今後はハノイがミャンマー、ラオス、カンボジアなどインドシナ地域への中継地候補になり得ます。地政学的にもベトナムに期待できると考えます。

「初海外」にお勧めの国商工会もバックアップ

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左から、伊藤氏、丸田氏、大塚氏

丸田 ベトナム人はとても優秀です。真面目に働くし、作業は丁寧ですし、ポテンシャルも高い。その意味では、ベトナムは海外進出にお勧めの国です。

大塚 その通りです。私は東南アジアや南アジアをずっと回ってきましたが、他国に比べてとても優秀。非常に仕事がしやすいので、特に初めての海外進出を考えているなら、ベトナムは出やすい国の一つでしょう。
定着率が良くないと言われますが、最近は離職率も下がっていますし、他のアジア各国と比較して決して定着率は悪くない。特に日系企業の多くは福利厚生などに気を配り、定着率はかなり上がっていると思います。

伊藤 治安がいいし、親日で、人柄もよく、食事もおいしい(笑)。生活しやすい国でもありますね。

大塚 法律が頻繁に変わるなどで躊躇される企業もあるでしょうが、ASEANの他国も変わりません。発展段階の国には要求されるものが増えてくるので、法整備を続ける必要があり、追い付かない場合もあるのです。

丸田 私たちはベトナム政府と対話の場を持っており、現在の商工会の活動は産業別というよりも各会員に共通する労務、賃金、税制、通関手続きの運用などの要望を政府に提出しています。
最近はベトナム政府からも日系企業の意見を聞きたいといった機会が増えており、商工会の機能を強める必要があります。大企業のみならず、中小企業を含めたオールジャパン体制を作っていきたいと考えています。また、ホーチミン市やダナンの日本商工会とも、連携を一層強める必要があります。
今後のベトナムの発展に、我々としても貢献したいと思っています。

※JBAVの会員は正会員のみ
※2014年10月現在