南北の日本商工会 が座談会、日系企業とベトナムの今
簡単ではない有望国将来性は十二分
百石洋人氏 JBAH会長三菱商事ホーチミン事務所長
坂上 勉氏 JBAH副会長兼事業環境委員長丸紅ベトナム代表取締役社長
本橋弘治氏 JBAH副会長兼労働・雇用委員長ベトナム味の素代表取締役社長
大橋 傑氏 JBAH副会長兼金融・税制委員長みずほ銀行ホーチミン支店長
ベトナム最大の都市、ホーチミン市。ここには中小から大手企業、製造業からサービス業など、幅広い日系企業が進出する。「ベトナム進出時の有力候補地」ともされるこの街には、どんな変化があるのか。
ライバルも大事な仲間商工会は情報交換の場
百石 今年4月に会長に就任した時は700社だった会員数が、現在(10月14日)では732社。昨年度は過去最高の101社増となりました。また、JBAHでは工業部会の割合が5割弱で、業種では化学品や電子・電気の進出が多く、エリアではビンオズン省への進出が増える一方、非製造業の加盟増も目立ちます。 業種はコンサルティング、人材紹介、法律事務所、ITなどで、日系企業を支援するサービス業がこの1年で増えています。
坂上 私は事業環境の担当をしており、政府や行政機関に対して提言する機会がありますが、最近は法律事務所や会計事務所を始め、人材紹介、飲食、塾など、確かにサービス産業関連の提言も多くなっていますね。
大橋 消費マーケットの観点から近隣諸国を見た場合、タイは大きいものの既に確立されており、ミャンマー、カンボジア、ラオスは発展途上なので、ベトナムが有望視されています。
特に南部は消費者の購買力が高く、富裕層の増加もあり、進出企業が受け入れられやすい土壌があります。
ただ、ライセンスの取得、規制や税制などで苦労する企業も多いようです。各社はその業種の専門家なので事前に市場調査は実施されていますが、法規制やライセンスに関しては当地でないとわからないことが多いのも事実です。
百石 これがアジア他国に比べてベトナムにおける日系企業の、商工会加盟率の高さにつながっているのでしょう。ベトナムでは横の情報交換をしないとビジネスの推進が難しい。だから、商工会のネットワークを利用して会員企業間で情報交換を盛んにしています。
本橋 同業他社はライバルですが、ベトナムできちんと事業を進めるための、大切な情報交換相手でもあります。
工業部会など同業種の部会はとても重要で、何らかの対応策が見つかることもありますね。
各業界の足下の課題それでもベトナムは魅力的
本橋 確かにベトナムは事業活動において魅力的な市場です。ただ、ベトナム人消費者は決して単純ではなく、一筋縄ではいかない。特に弊社で扱う食品となると、味覚や食文化が関係するのでさらに難しくなります。魅力とは、きちんと消費者に伝われば大きなリターンが期待できるところですね。
製造業全般に言えることですが、現地の原材料を使い、安くて優秀な人材を雇用して、製品を作って輸出するタイプと、ベトナムの内需を見込んで進出するタイプに分かれます。どちらも伸びていますが、より増えているのが後者だと思います。
内需型では、日本ブランドのクオリティを、ベトナムの消費者に認知してもらうことが何より大切です。
百石 ベトナムではスーパーマーケットの出店がまだ少なく、モダントレードが限定的で、食品は伝統市場での購入が主流です。パパママストア等の伝統市場では販売スペースが狭いので、売れ筋の商品しか置けないという制約があります。
ですが、徐々に出来つつある大型ショッピングセンターでは、多種多様の商品が置かれるので、日本ブランドの新製品も陳列され、認知されれば販売が大きく伸びていく可能性がある。日本の外食チェーンも参入が増えてきており、小売りや外食のさらなる規制緩和は必要です。
坂上 丸紅ベトナムは3年程前に駐在員事務所から現地法人化しましたが、その理由の一つは内需を取りに行くためです。
ただ、商社が得意とする原材料や素材の輸入・販売は、まだまだすそ野産業が十分に発展しているとはいえない状況なので、爆発的な数量の伸びはすぐには期待しにくい。
大橋 銀行業界では規制が多いため、他国で提供できているサービスや商品で、展開が現状難しいものもあります。ただ、外銀協会などで同業者と話すと、皆の意見は「経済共同体設立や外資誘致競争激化を考えると、今後は規制緩和が進む可能性が高い」。
従って今、ここで顧客基盤を広げておけば、将来の収益機会は広がると思います。ベトナムはリテールバンキング(個人や中小企業を対象とした小口の金融業務)市場の将来性が高いのも魅力です。
百石 ベトナムで注目しているのはインフラ事業です。電力やエネルギー、交通インフラでは、他のアジア各国に比べても案件の多さが見込めます。また、ベトナムの主要産業である農水産業にも関心を持っています。コーヒーなどの農産品やエビなどの水産品はベトナムの大きな輸出品目となっていますが、農水産物に加工付加価値を付ける取り組みを強化しながら、肥料・農薬などの周辺ビジネスにも発展の可能性を見ています。
大橋 ベトナムに関心があるお客様は、来年末に予定されているASEAN経済共同体を見据えており、アジアのどこにどのような拠点を作ればよいのかを探るために、ホーチミン市を訪問されるケースも多くなりました。
ベトナムは地理的に恵まれており、地域の太平洋岸は全てベトナムで、南部経済回廊の出口のバリア・ヴンタウ省、東西経済回廊の出口のダナン等、モノが動く場所でのビジネスの発展が期待できます。
日系企業にアドバイス今後のベトナムはどうなる
坂上 ベトナムは中国に似た発展をしていくと思います。低廉な人件費だけを求めて進出する企業は、さらにコストの安いミャンマーやバングラデシュなど西へシフトしていく。既に繊維業界にはそのような動きが見られます。
一方、生活水準が上がったベトナムでは、付加価値やデザイン性の高い、コストに見合ったものを作る。過去は原体で輸出していたエビを、今ではより加工した形で輸出しているようにです。
大橋 9000万人超という人口がいる発展国なら、自然とサービス業は増えるはず。製造業にとってもポスト中国としての移転先と、ASEAN域内での分業の最適地の候補になるでしょう。
坂上 国内市場では都市部と地方の格差を知るべきだと思います。内需という意味では、ハノイとホーチミン市は確かに高所得者層が多く在住していますがベトナムの人口の3割程度しか住んでいません。
残り7割の人口が住む地方が本当のマスマーケットでしょう。両都市だけを見て「バンコクやジャカルタと変わらない」と言う人もいますが、地方は別の国といったような認識を持つ必要があると思います。
本橋 確かに全国がマーケットなのですが、この人たちに合わせた商品の開発は容易ではありません。要は企業が「待てるか」だと思います。
3年や5年で黒字化する事業計画を持ってきますが、おそらくそうはならない。現地の我々はその実態がわかっているし、それでも徐々に進んでいると確信できますが、「そう簡単に事は進まない」と思ったほうがいいでしょう。富裕層は増え、インフラが整備されても、そのスピード感に過度の期待はしないほうがいい。
大橋 ベトナムは有望国ですが、投資のハードルは決して低くありません。簡単なマーケットでもない。特に南には中小企業の会員も多く、日本国内では限界があると海外展開を志向している方もいます。他国との相対比較では優位ですし、親日国なので受け入れてもらいやすいですが、事業展開には相応の注意も必要でしょう。
本橋 私は中小企業・裾野産業支援委員会の委員でもありますが、中小企業の悩みは、十分な人的資源が日本から受けられないこと。社長や工場長が何でもこなすので、本業に集中できない人もいる。
こうした経営者の方に情報を提供して、サポートするのも商工会の役割です。
百石 JBAHは、ホーチミン市や南部各省の人民委員会と会合・意見交換会などの機会を通して、関係を強化しています。それぞれの市・省政府に、会員企業のための事業環境の改善要望を提示し、交渉をしています。
日本は直接投資額が大きいこともあり、ベトナム市・省政府側は日系企業誘致に熱心で、真摯に我々の意見を聞いて対応してくれます。進出する日系企業に対して、JBAHとして今後もしっかりとサポートを続けたいですね。
※2014年9月現在
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