年8月頃、国家賃金評議会から、翌年度の民間セクターの最低賃金案が発表されます。最低賃金とは「労働者とその家族の最低の生活需要を満たす」額をいいますが、実際には最低の生活費すら賄えない(2013年のベトナム労働・傷病兵・社会省の試算では本来の金額の62~69%)と指摘されています。

近年のインフレ鎮静化を受けて2017年は前年比7.1%増(第一種地域)と、2008年から続いてきた2ケタ上昇が止まり、2018年も398万VND(6.1%増、同地域)とその傾向が続いています。

正式には11月に発布される政令によって翌年1月1日からの最低賃金が決まりますが、例年、労・使・官・公益などの各代表で構成される国家賃金評議会の案が、そのまま採用されています。

なお、公務員の「基準」賃金は、11月の国会で採択される次年度予算で決定されます。財源不足のため、2013年から3年間据え置かれた後、2016年に5.2%、2017年に7.4%引き上げられて、現在は130万VNDです。実際に支給される賃金はこの「基準」賃金に、職位や勤続年数に応じた係数をかけて計算されます。

最低賃金規定に違反した使用者に対しては、対象となる従業員の人数に応じた行政罰(2000万~7500万VNDの罰金)、最低賃金との差額の支払い命令、1~3ヶ月の営業停止命令などの行政処分が科せられます。

日系企業では、最低賃金を超える水準の賃金が支払われる場合が多く、本来的には最低賃金引き上げによる直接の影響は小さいはずですが、最低賃金を大幅に超える従業員であっても、最低賃金引上率かそれ以上の賃上げを期待する風潮があります。

国家賃金評議会における幅広い議論に基づく合意形成が期待されます。

小幡 葉子
Obata Yoko
TMI総合法律事務所ハノイオフィス勤務。日本国弁護士・ベトナム外国弁護士。1992年より雨宮眞也法律事務所にて企業法務を担当、JICAベトナム法整備支援長期専門家などを経て、2013年4月より現職。
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