回は、日本の所得税上の居住者である個人が、ベトナムの法人にて法的代表者となり、1年間において1ヶ月程度ベトナムに滞在する場合の、ベトナム個人所得税(以下PIT)の取り扱いについて解説いたします。

① ベトナム国内法。通達111(通達111/2013/TT-BTC第2条2項d)では、ベトナムにおける法的代表者の報酬は、ベトナムでの申告義務を規定しています。また、通達205(205/2013/TT-BTC)の第33条では、当該申告義務はベトナム滞在の有無に関係しない旨を明確に規定しています。

② 日越租税条約。日越租税条約の第16条では、日本の所得税法上の居住者が、ベトナム法人の役員の資格で取得する役員報酬、そのほかこれに類する支払い金(以下「役員報酬」)に対しては、ベトナムにおいてPITを課税することができるとしております。

一方、同条約の第15条では、日本の所得税法上の居住者が、給与、賃金、そのほかこれらに類する報酬に対しては、ベトナムで勤務しない場合、日本においてのみ課税を行うことができると規定しています(同条1項)。そして、たとえベトナムで勤務したとしても、ベトナム滞在が183日未満であるなど一定の条件を満たす場合には、日本でのみ課税されることとされています(同条2項)。

このように、役員報酬はベトナムでの納税義務を免除するような特別な規定はないものと考えられています。そのため、実務上では、税務当局の推定課税を避けるため、ベトナムで一定額の報酬の設定を行い、PITを申告・納税するケースが多いように見受けられます。

なお、当該PITは、日本での外国税額控除適用が可能と考えられ、日本側での検討をお勧めいたしております。

吉田 俊也
Yoshida Shunya
AGSホーチミン事務所に勤務する日本国公認会計士。日本の大手メーカーでの経理を経て2014年より現職。原価計算システム構築、連結決算、国際会計基準対応などに強みを持つ。
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