統計総局以外には主要な調査データがないベトナム。市場調査は主に民間の調査会社が引き受けており、新規参入も増加中だ。
一方で、調査手法や得意分野、調査結果も個社で異なる。
今のトレンドは何か?ベトナムではこれから、何が流行るのか?

INTAGE VIETNAM LLC.

詳細なデータが語る
地域別・国別の差

ASEAN諸国に拠点を持つインテージグループはアジア最大手の調査会社のひとつ。

その中で、インテージベトナムは全国にスタッフ約200人、訪問面接の調査員約1000人を擁する。市場調査は対面で詳しい質問をする訪問面接が主体だ。

対面調査で情報収集

Director 根岸正実氏
「大手企業を比較した場合、欧米系、韓国系、日系の順番でマーケティングリサーチの費用が多いと思います。また、欧米系では結果の検証が当然で、テレビのCMならワンシーンごとにその効果を調査する企業もありますね。ただ、日系でここまでする会社は稀でしょう」

同社はインテージグループの傘下に入った元ローカルの調査会社なので、顧客は日系企業が2~3割であり、ビナミルクなどのローカルの大手企業が中心、欧米系も多いという。調査方法には定性と定量があり、定性とは訪問面接やグループインタビュー、定量は選択肢を答えてもらうランキングなどのデータになる。いずれも対面で質問する調査方法だ。

日本の市場調査はオンラインでの回答が主流になりつつあり、調査によれば全体の46%にもなるが、ベトナムでは1%もないという。逆にベトナムの主流は、調査全体の約5割を占める訪問面接だ。同社もこの方法が調査の中心で、そのための調査員が全国に約1000人いるという。彼らがアトランダムに家庭を訪問するなどして、顧客の要望に沿った詳細なデータを引き出している。

「基本的には定性と定量をセットでお勧めしています。ただ、企業文化や担当者の性格によって好みのリサーチ手法は異なりますし、意思決定としてのリサーチ結果の使い方にも差があります」

顧客にはB to Cの製造業が多く、業種はFMCG(一般消費財)から自動車までと幅広い。依頼内容は消費者ニーズやベトナム人の価値観などが多いそうだ。

地域や国別で志向の差

INTAGE-graph-1現在、多くの企業が模索しているひとつが、「ベトナムの若い世代に受けるもの」。ただ、ハノイとホーチミン市では、まるで国が違うように嗜好が異なると根岸氏は語る。ホーチミン市ではバンコクと似ており、視覚的に訴えるものに反応が良い。一方のハノイの人は、キャッチフレーズがあればそれを腹に一旦落として、納得しないと動かない。その差は「流行りもの」にも表れている。

「ホーチミン市では国内外の旅行、Uberなどのサービスアプリ、ルーフトップなどの新しいタイプのレストラン、スパランドなど家族や仲間で遊べる施設などが有望で、一口で言えばサービスとエンタメ。ハノイではバイクはベスパ、ノートPCはソニーというように一点買いの傾向が強く、かつブランドが重視されていると思います」

こうした地域性は他にも見られ、例えば特に若いベトナム人が好きなFacebookの利用時間にも顕著な差がある。同社では自主調査として、ホーチミン市、ハノイ、ダナンの3都市の比較を毎年数回行っている。それによるとFBの利用時間はダナンが最も長く、次がホーチミン市で、両都市に比べるとハノイはかなり短いとわかる。

同様の自主調査では毎年1回、ASEAN各国の様々な比較もしており、この調査では国別や都市別の特徴がわかって興味深い。ホーチミン市、バンコク、ジャカルタの比較調査では、日本ブランドの購入利用意向が大きく異なっていた。

時系列で見ると、タイとインドネシアの女性の日本ブランドへの意識は、悲しいことに全ての商品で下降している。これに対して、ベトナムの女性は全てにおいて上昇しているのだ。特にヘアケア品や化粧品などパーソナルケアは人気急上昇だ。

「こちらも訪問面接で、ランダムに訪ねて調査しました。訪問面接のほうがデータが正確になるので、お客様にもお勧めしています」

消費者に伝える「価値」

INTAGE-graph-2現在のベトナムでの消費現象は、日本の1960~1970年代に似ている部分も多いと根岸氏は語る。

品質は問われるものの、話題性が先行して売れていく商品が多く、それは企業サイドも気づいている。そのような中、売上の継続性を担保するために、市場調査のような科学的なリサーチをどのように入れていくかが問われているという。

「売れる要素には、『友達が言ったから信じて買った』など話題性以外の、例えば流通の問題などもあります。消費者への市場調査はひとつの軸としてとらえ、トータルで戦略を考えることが重要になります」

これから来る市場として、既にその兆しを見せているのが、運動、食品、サプリメントなどを合わせた健康系と、高齢者のためのケア商品・サービスという。ただ、ベトナムでは、消費者に価値をわかってもらうのが難しい段階にあるそうだ。

「例えば、日本なら『糖質オフ』とアピールすれば消費者はその価値を理解できますが、ベトナムではそのようなコミュニケーションでは伝わりにくく、ブレイクダウンして消費者に伝えることが必要になります。そのブリッジをどう掛けていくかに、多くの企業が困っているのではないでしょうか」

グラフ出所:INTAGE VIETNAM LLC.