統計総局以外には主要な調査データがないベトナム。市場調査は主に民間の調査会社が引き受けており、新規参入も増加中だ。
一方で、調査手法や得意分野、調査結果も個社で異なる。
今のトレンドは何か?ベトナムではこれから、何が流行るのか?

B&Company Vietnam Co., Ltd.

情報が少ないから
必要となる業界調査

2008年設立のB&Companyは多面的な手法による「業界調査」に強みを持つ。
当初はB to C型企業の案件が多かったが、B to B型企業からの依頼が増えて現在は6割強。顧客の業種は製造業とITの他、教育、メディア、金融、サービスと幅広い。

様々な手法で業界を探る

General Director 太田薫正氏
「業界の調査では、製造業ならメーカー各社への取材に併せて、代理店や卸売業者などのディストリビューターを調べるとその構造がよくわかります。また、エンドユーザーも調査します。『1次・2次代理店を通していて、本当の買い手が見えない』などの悩みを抱えるお客様もいますから」

同社の調査方法は訪問、ストリート(街頭調査)、会場(グループインタビュー)などの対面式と、電話、メール、ネットなどのアンケート式に大きく分かれ、オンライン調査で抽出した人を対面調査するなど多彩。これらをいくつか組み合わせる、セットアップが大切だそうだ。

各家庭を訪ねる訪問調査は契約した調査員を介して行うが、インタビューの内容だけでなく家の様子や家族構成などもわかるので綿密な内容となる。それだけ費用も掛かる。ストリートは時間や手間がさほどかからないので比較的低価格で、オンライン調査はより安価となる。顧客の目的や予算に応じて組合せを変えるという。

では、業界調査はどんな内容なのか。製造工場などで使われる金属加工部品のメーカーが顧客なら、部品の販売先である現地製造業の業界構造や主要プレイヤー、市場規模などがそれとなる。一般的に対象は日系、外資系、ローカル企業だが、顧客の納入先が日系企業だけなら、日系のみの場合もある。

市場規模を知りたいという案件も多いという。この場合は、企業や顧客の数はもちろん、輸入関税の公的データなど様々な調査結果から全体像を推定する。こうして調べられた業界調査は、パワーポイントで50枚、100枚などのレポートになる。

「弊社のお客様の約9割は日系で、その半分以上がベトナム進出を検討している日本の企業。進出したての日系企業も少なくありません。お客様と相談しながら調査を進めるので、調査結果の完成までは短くて1ヶ月、長いと半年以上継続するプロジェクトもあります」

最近の注目案件とは

B&Company-graph-1ある程度の実際をつかみ、過去と現在のトレンドを調べて、将来を推定する。例えば、「月収1000USDの30代」といった各要素の10年後の人口や所得などを組み合わせれば、その市場規模が見えてくる。

「ただ、ベトナムでは情報量が少ないので、『こう考えると、こうした数字になる』といった方向性がわかるくらいですね。加えてどんな調査でもバイアスは避けられません。市場調査はサンプルの結果から母集団を推測するわけですが、均等にサンプルを取るのがほぼ不可能だからです」

仮に「ホーチミン市在住の20代100人」をサンプルとして、ホーチミン市の一般的な若者像を把握したい場合でも、話はそれほど単純ではない。いかに偏りなくサンプルを集めるかが難しく、工夫のしどころであり、例えばストリート調査では調査場所を住所で分けて、「中心街1カ所のみで収集」などとはしていない。

積み重ねてきた実績から最近の注目を聞くと、ひとつはベトナムの政府や自治体などの情報システムを請け負いたい企業からの、調査依頼が増えているという。サービス系では医療機器や薬剤などのメディカル系、塾や学習教材などの教育系、少しずつ増えているのが金融系とのことだ。化粧品、健康食品、ネイルやヘアサロンなどの健康・美容系も多いという。

「今後というより、現在のトレンドでもあるのが健康食品と教育サービス。ただ、どちらも既にプレイヤーが多いので、日本製や日本式というだけで、どれもが受け入れられるとは思えません」

意外な「店内」の影響

B&Company-graph-2同社のストリート調査には、ブランド別にその情報チャネルを尋ねたものがある。上の表のように選択肢はテレビ、店内、Webサイトの3つだが、実は他にもポスター、SNS、新聞、雑誌、ラジオがあり、これら5つはほとんど選ばれなかったためにここには掲載していない。選択肢の3つの中では「店内」が目を引く。

「企業広告ではテレビとネットが重視されていますが、In Shop、つまり店員との会話や彼らからのアドバイスの影響が大きいとわかります。商品によって広告の媒体を分けたり、組み合わせるなどが効果的でしょう」

同社のオンライン調査では、「好きな映画のジャンル」がある。ホーチミン市、ハノイ、ダナン各都市での大規模調査なので、いわば全国的なベトナム人の嗜好が出ている。映画はアクションとコメディが大好きいう結果だ。

「映画コンテンツを輸出したい場合、この調査結果だけでも多少役立つかもしれませんが、目的に併せて、性別、年代、居住地別に結果を見たり、他の調査結果と組み合わせるなどして、さらに詳細な内容や傾向を把握するのが通常の流れです」

グラフ出所:B&Company Vietnam Co., Ltd.