統計総局以外には主要な調査データがないベトナム。市場調査は主に民間の調査会社が引き受けており、新規参入も増加中だ。
一方で、調査手法や得意分野、調査結果も個社で異なる。
今のトレンドは何か?ベトナムではこれから、何が流行るのか?

Asia Plus Inc.

ネット調査で見えた
ベトナム人の姿

2014年に黒川氏が起業したアジアプラス。オンラインに特化した手法でスピーディかつ低価格な市場調査を提供する。

この国を選んだ理由は、良質なエンジニア、Wi-Fi環境、サービス後にすぐに反応を確認できる街の小ささと語る。

オンライン調査の対策

CEO 黒川賢吾氏
CEO 黒川賢吾氏
「ベトナム人、特に若い人のFacebook利用率がすごく高い。他のアジア諸国ではLINEやInstagramなども広まっていますが、ベトナムはFBだけと言っていいほど。一方で大手企業は広告投資の8割がテレビで、WEB系は1割にも届きません。もっとやりようがあるはずです」

同社の調査方法は、合計約10万人の会員がスマホかPCで回答するオンライン型。ネットの使用が前提となるため、回答者の多くは都市部に住む10代~30代であり、地方在住者や高齢者は少ない。ただ、調査依頼の対象のほとんどが都市部の若い世代であり、顧客の要望の9割はカバーできているという。

競合他社が電話や家庭訪問などで調査を実施するのに対してオンラインを活用するため、価格は3分の1程度、調査期間は2~3日。顧客の7割が日系企業で、案件は消費者ニーズ、日本の商品への反応、CMの効果測定といったキャンペーンレビューなどだそうだ。

「回答数が500~1000人、質問数は30問くらいが多いですね。効果を左右するのが質問の作り方なので、このやりとりで1週間くらいを掛けます。調査結果を渡すまでに10日弱です」

簡単に返答できるオンライン調査で懸念されるのが、「いい加減な回答」だ。黒川氏によれば確かに回答者の1割程度はそんな人たちだという。

そこで、その分を上乗せして回答数を集めたり、回答時間の短い回答者や、質問内に意図的に類似質問を入れて矛盾した回答をした者を削除するなどの対策を打っている。

ちなみに会員は1調査の回答で10ポイント(1000VND相当)が取得でき、たまると携帯電話チャージ用のコードがもらえるそうだ。

若い世代にはFB戦略を

Asia-Plus-graph-1日系企業からは世帯月収が1001~1500USDの調査依頼が多いという。中間層の情報源、販売チャネルとしてのECの可能性、商品の知名度などが主な内容だそうだが、様々な調査を通して黒川氏が感じるのは、日本企業のベトナム人像と実際とのギャップ。

経済発展中のベトナムなら色々な商品を買ってくれると期待しているが、他の新興国に比べてベトナム人は財布のひもが固いという。

「ホワイトカラーの夫婦で月収1000ドル少々では、子どももいるでしょうし、贅沢はたまの週末にバッフェに行くくらいではないでしょうか。加えて、ベトナム人は他国に比べて保守的。マレーシアやシンガポールでは何かが流行ると皆がそれに飛びつきますが、ベトナム人は家族や知人からの情報を大切にするためか、外の情報にあまり踊らされないようです」

また、下のグラフのように日本製品は技術と食で注目度が高いが、美容、ファッション、エンタメでは支持率が下がる。品質は高くても、「カッコいい」や「カワイイ」ではないようで、そこにはメッセージの伝え方も影響しているという。

「若い世代ではFB、WEB、口コミで情報が流通しています。企業も自社のHPやFBを持っていますが、『企業目線』で商品の告知をする程度で、担当は不慣れな赴任者の兼務か外注が多い。FBのファンを作るのは簡単でなく、打ち手と効果を検証しながら戦略を変えることが大切になります」

そこで提案するのが専任の担当者の雇用。ある程度のルールを作って検証作業まで任せれば、ルーチン作業が得意で実情を知るベトナム人のほうが向いているかもしれない。冒頭のように日系、外資系、ローカルも大手企業は広告にテレビを多用しており、確かに全国の老若男女に届くものの、数千万円単位の費用が掛かるそうだ。その予算の一部を割いてはと黒川氏は語る。

「勝ち組の特徴はメッセージがシンプルなこと。とにかく、わかりやすい」

健康と教育、スマホ調査

Asia-Plus-graph-2今後の注目は「健康」と「教育」という。健康は運動に加えてサプリなど、教育は5~6歳以降の子どもが対象。後者はまさに夫婦共働きで生活に余裕がある層がターゲットで、日本の充実した内容にニーズがありそうだという。

一方、FBでは自分の作った服を売るなどが流行っている。代引きによる現金決済が一般的で、電話番号を気軽にHPに乗せる習慣なども背景にあるのだろうが、今後も個人での売買は増えると感じている。

「ファッションやアクセサリーなどのブランド品は流行するまで時間が掛かると思います。大金持ち以外は知らないですし、正規ブランドは流通費も高い。ECでは逆に効能や個性の強いノンブランドが人気になるかもしれません」

今後の調査にはスマホをより使いたいそうだ。写真でビジュアルを伝えられるのは強みだし、動画も位置情報も活用できる。

「買い物をした店舗から商品の写真と位置情報を送ってもらうなどもできますね。これからは日系企業だけでなく、ローカルや外資系も狙いたいです」

グラフ出所:Q&Me(Asia Plusの市場調査サービス)