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日本各地の自治体がベトナムに乗り込んでいる。特産品の輸出、工業団地への援助、販路の開拓、現地企業との連携…。従来と異なるのは、進出企業を「戦略的」に支援している点だ。共通していたのは「人とのつながり」の大切さだった。

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クール北海道株式会社 執行役員(営業、マーケティング担当) 吉村  匠氏(写真右)  クール北海道株式会社 クール北海道ベトナム 執行役員(経営企画、管理担当) 大塚  隆博氏
神奈川県 産業労働局産業部
国際ビジネス課 副主幹

樋口泰介

進出支援の工業団地

神奈川インダストリアルパークとは、北部フンイエン省の第二タンロン工業団地内にある集合型レンタル工場。県内中小企業のベトナムでの生産拠点用に提供するもので、2015年6月には海外初進出の通信機器・電子応用機器メーカーが入居した。

進出のサポートは準備段階から操業後までの一貫した体制で、海外進出計画の作成、資金調達、現地政府などへの申請、リスクマネジメント、労務などの情報提供、現地ベンチャー企業の紹介、雇用支援・情報提供など多岐に渡る。神奈川県だけでなくその関係機関やJETRO、民間企業などがバックアップする。

「管理費1年分が無料、管理会社の投資ライセンス取得等の代行サービスが無料(実費負担)、防災調査の無料実施など、神奈川県内企業への優遇措置もあります。初期投資を抑えた、小規模かつ早期の操業開始が可能です」

神奈川県はなぜこの地の工業団地を選んだのか。そもそも県内では中小企業の海外進出意欲が高まっており、2012年度と2013年年度に実施した「県内企業海外展開動向調査」によれば、進出形態では生産拠点の設置が最も多く、特に初期投資を抑えられる「貸工場」へのニーズが高かったという。進出希望地域は、タイ、ベトナム、インドネシアなどの国が多かった。

一方で課題もあった。多くの中小企業は海外進出の経験が少ないため、言語の問題や現地情報の収集が難しく、現実的には単独での進出が困難だった。そこで、神奈川県だけでなく関係機関などを含めた一貫サポート体制となったようだ。

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進出国は希望が多かったタイ、ベトナム、インドネシアを中心に、県内中小企業の進出動向やニーズ、投資環境、行政支援の必要性、現地政府の協力体制などの点について詳細に検討し、ベトナムを候補地に選んだ。

「県内企業の進出意欲の高さに加えて、ベトナム人労働者の賃金や工場の賃貸料などが低廉で、生産コストが低く抑えられ、部品や原材料の現地調達率が低いため中小企業にも参入余地がある。また、若くて勤勉、優秀な労働力を確保しやすいこと、治安のよさや親日性、人口約9000万人の国内市場も魅力でした」

ハノイ周辺には大手組立てメーカーが集まり、日系部品メーカーの進出が待たれているという情報もあった。第二タンロン工業団地は日系大手商社の運営で、入居企業へのサポート体制が充実している。ハノイとハイフォンを結ぶ国道沿いにあり、両市からのアクセスのよさも理由となった。

神奈川県は2014年7月に計画投資省との経済交流に関する覚書を締結。2015年9月には第二タンロン工業団地があるフンイエン省人民委員会とも経済交流に関する覚書を締結した。こうしてベトナムとの関係を徐々に深めていった。

神奈川インダストリアルパークの内観
神奈川インダストリアルパークの内観

訪越時の黒岩知事とサン国家主席
訪越時の黒岩知事とサン国家主席

今後も交流を促進

神奈川インダストリアルパークの開設と同時に、知事とベトナム国家主席をはじめとするベトナム政府関係者とのトップ面談で太いパイプを築くなど、その後のフォローも継続した。そして、経済だけでなく人材や観光など、交流は多方面に広げられた。

一方、神奈川県内には多くのベトナム人が暮らしており、また、留学生は約1500人と、2年前の約5倍に急増しているという。

「こうした交流をさらに深めるために開催したのが、『ベトナムフェスタin神奈川』です。晴天にも恵まれ、2日間の文化交流プログラムで約40万人の方に来場いただきました」

このフェスティバルは横浜市のみなとみらい地区と神奈川県庁前の日本大通り、県庁本庁舎を会場に、経済プログラムと文化交流プログラムが合わせて3日間続けられた。本特集の最後には昨年日本で開催された主なベトナム系のフェスティバルを掲載しているが、既に恒例となっている代々木公園(東京都)の「ベトナムフェスティバル2015」の来場者数が2日間で約18万人なので、どれほどの人が集まったか想像できるだろう。

学術や教育などの分野でも交流が始まり、2014年3月には神奈川県立保健福祉大学とハノイ医科大学との連携協定が締結され、教職員や学生の交流が既にスタートしている。2015年度からは、県の試験研究機関などに海外の指導者層を政策研修員として受け入れる制度が始まり、ベトナムからは3名が決定。来日して1月に知事を表敬訪問したばかりだ。

今後も多種多様な取り組みで、神奈川県とベトナムとのつながりが深化してくようだ。