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日本の技術とベトナムの風味 次の狙いは富裕層、IT、国際市場

ベトナムの即席麺消費は激増しており、年間消費量は世界4 位(日本3 位)、国民1 人当たりの消費量は日本を抜いて世界3 位(2013 年:世界ラーメン協会)。この即席麺大国でシェア55%という牙城を築き上げたのが、エースコックベトナムだ。

進出時は原材料高で苦悩

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エースコックベトナム 梶原潤一社長(撮影/大木宏之)

「赴任して4年半になりますが、ずっとベトナムに来たくて仕方なかったのです。ようやく念願がかなって、今では好きな仕事をさせてもらっています」

エースコックベトナム(ACV)がこの地に工場を竣工し、即席麺の販売を始めたのが1995年。この立ち上げ期に梶原潤一社長は日本でマーケティング部長の職にあり、当初よりベトナム進出に携わっていた。初来越は1992年。

「当時のベトナムに加工食品会社はあまりなく、即席麺の品質は日本のものとは程遠かった。ベトナムの食生活を変えられると感じました」

日本は1990年代に入ってから人口が伸び悩み、エースコックは海外に販路を求めた。アジア各国を探す中、ベトナム市場は競合が少なく、「白い紙に地図が描ける状態」(梶原氏)だったという。しかし、地図はなかなか描けなかった。

現地での原材料の品質が劣っていたため、小麦粉などの主原料から調味料までを輸入したことで、大幅なコスト高になったのだ。平均700VNDの即席麺(袋麺)が一般的な中でACVの価格は1800〜2000VNDとなり、富裕層や特別なイベントで食されることはあっても、庶民の日常食ではなかった。

コストダウンに要した期間は5年。日本の原材料メーカーに現地企業の技術指導を依頼し、現地メーカーも最新機械を輸入するなどして、主に製粉技術を向上させたのだ。

加えて同社には強みがあった。エースコックの主力商品がカップ麺であったことだ。日本の袋麺は鍋で煮込むが、ベトナムでは麺と湯を器に入れて作る。つまり、作り方は日本のカップ麺と同じであり、その技術やノウハウを培ってきた強みが活かせたのだ。

「競合他社もこの製法を導入し始めたので今では話せますが、以前は機密事項として口にしていませんでした」

爆発的ヒットでシェア55%へ

ACVのホーチミン市本社

こうして2 0 0 0 年、1000VNDで発売した「HaoHao」( ハオハオ) が大ヒットする。「値段は高いが味はいいらしい」と思われていた日本メーカーが半額程度で売り出した即席麺に、お客が飛びついた。現在でもACVの主力商品である「HaoHao」はいくら生産しても不足し、生産設備の増設や新設が相次いだ。これをきっかけに同社は市場を席巻し、国内販売数約29億食、国内シェア推定55%(共に2013年度)という業界最大手に成長したのである。現在は国内に7拠点、11の工場を持つ。

売上の半分以上を占める
「HaoHao(TomChuaCay)」

「当時から大切にしてきたのは、製造技術や品質管理は日本式で行い、味作りはベトナム人スタッフに任せて口出しをしないこと。つまり、『日本の技術とベトナムの風味』です」

成熟期に新たな3つの戦略

Bun Gio Heo
ベトナム米を使ったブンの袋麺「BUN( GIO HEO)」Udon Sukisuki 日本のうどん「Udon Sukisuki」

ただ、順調に伸びてきた即席麺需要は2010年ごろから鈍化。ACVでは購入頻度を向上させる施策や、富裕層向けの高価格帯商品の販売を始めている。特に注力しているのが後者だ。

「米麺を伸ばしたいと思っています。例えば、同じ米麺でもフォーとフーティウはシート状の素材を裁断して麺にしますが、ブンは押し出して作ります。これらと同じ製法で商品化しているのは弊社だけだと思いますので、食感に差がつけられます」

また、カップ麺は即席麺市場の1〜2%とまだ低いが、ACVはシェアを急伸中。同社はかやくの内容を充実させた「ENJOY」を2012年に発売した。一方、2013年には日本のうどん「Udon Sukisuki」(ウドン・スキスキ)を発売。麺にこだわると同時に、日本
から鰹節を輸入して出汁を作ったという。

「ホーチミン市では日本料理店が増え、そのお客にベトナム人も多くなりました。そんな彼らに日本の味を届けたかったのですが、実は私もうどんが食べたかった(笑)」。

NTTデータと連携して物流管理システムの導入も始めた。全国各拠点のネットワークを強化するためで、年内にも完了予定という。
「南部で作った製品を北部に運んだり、本社工場で作った材料を各工場に配送するなどの物流には、ロスや欠品、在庫過多も生じます。また、スーパーには1日何台もの納品車両がくるため、待ち時間を合わせて納品が1日がかりの日もある。これらを最適化し、効率化するためのシステム導入です」

海外展開も一層進める。同社ではベトナムを拠点に約46カ国に輸出しているが、売り上げの9割は国内で輸出は1割程度だ。主にアジアが中心だったが、今後はもっと幅を広げたいという。

「国や地域に合わせた味付けが必要で、苦労もありますが、それができるのが即席麺の強み。今は逆境かもしれませんが、だからこそ今後が非常に楽しみなのです」